「まだ学生だからおぼつかないところはあるけど、勤務態度も真面目でやる気があるから」

一昨年秋に入隊した現役立教大学生を、約１年半後の今、なぜオレに預けたか、川村に訊いたときの回答だ。
ちなみに、川村は彼に対してのみ「今週は全て笹塚にシフトします」と伝えていた。

オレは川村に
「警備員は男も女もうまい話に飛び付いて、人を天秤にかけて平気で裏切るようなせせこましいのしかいないのに、彼だけは”余裕”がある(厳密に言うと、これまでオレのもとにいて、浅ましい行為をしなかったのは奥田智美、淳、本間、ジェイミンだけだ)」
と伝えたら
「そうそう！それです！」
と返してきた。
「オレも生活に追われていない。余裕があるから、同じ匂いの人間には敏感だ」

「立教大学だろ？もともと頭がよくて、性格は冷静で穏やかだ。お父さんも立派な人っぽくて、経済的にも明日の生活に追われていない。働いたお金は自分のことと、親にもお金を入れていると言っていたよ。学費は自腹かもね。警備員を長く続けているのも楽しいからと言っていたよ」

オレは、彼には
「警備員を通じて、この世界にいる大人の人間がどんな”種類”なのかをよく見極めろ。君の将来の人間像をイメージしながら、日雇いの大人の生き方や考え方を客観視して欲しい」
そして
「将来、企業に就職したときに、人を適材適所にシフトしたり、どう人を切り盛りするかを勉強して欲しい」
と伝えてある。

川村にはそのことも話した。
川村からは「ありがとうございます」と。

「川村、お前はさすがだ。よく人を見ているよ」

多分、彼を、”素行不良者”から引き離したいのだろう。
川村は20前半の彼とタクローには「立派な大人になって欲しい」と。

川村にも、彼本人にも伝えていないことがある。

オレが過去１年の間に、２人現場で相勤した、連勤している新人数人から「松本さんは仕事ができるって有名です！」と言われたことがある。
彼らに「誰の口コミ？」と聞いてみたら、大沼くん(２級)、斎藤亨(２級)、阪本眞生(某音大准教授)、中村智明、世賀くんなどの名前とともに、必ずと言ってよいほど彼の名前があった。

「来週、加トは日勤があるけど入る？」
と聞いたら「入りたい」って言ってきた。
内勤も人手不足だから、夜勤隊員が日勤にシフトするのは助かるよ。
彼はスキップを踏んで帰宅した。

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